殺し屋

気が付いたら人を殺している。そんな物騒な事があるわけが無いと思っていた。だってそうだろう?どんなに馬鹿げたものでも『はいはい』と言っておかないとやっていけない世界だ。簡単に人を殺していたら、ただの『殺し屋』と言われてしまう。

だが、俺の足元には一人の女の死体があった。憎みきってアホらしく思えた人だったら今更殺そうとも思わない。でもやってしまった。とある人に依頼で頼まれて、女を殺せと言われた。言われた通りにした俺の体には返り血が付いていて、自分でも馬鹿馬鹿しいと思ってしまう。

「チッ」

だんだんイラついてきた。そんな気持ちを隠すように煙草を一本取り出して、ライターで火を付ける。深く息を吸って吐くと、煙草の煙が口から出てきた。そんな煙は、情けない俺を見て嘲笑うかのように静かに消えていった。

「どこに行っても俺の味方はいねえのかよ」

ボソッと呟く声でさえ、誰にも拾って貰えない。当たり前だ。この世界は警察だとか病院だとか、そんな頼れる機関が無い。逆に言えば、犯罪大国になってもおかしくない。それでもこの国は、そんな方向にいかない。すげえよな、それが俺の仕事ってことでさえ誰も気付きやしない。

救うのは自分。

治すのも自分。

多分、俺が人並み外れた能力を持っていなかったら、きっと頼られてない。こんな気持ちにも寄り添ってくれない。依頼者は、こんな俺を慰めると言っていた。

だけど、信じられない。

殺人者に寄り添う馬鹿は流石にいないと思うから。

昔からそうだ、俺が言ったことは無視されてしまうし、存在も馬鹿にされる。生きてるだけでそんな扱いをされるのなら、今更頼れるのは〝自分〟以外を頼れと言いたいんだろうな。だけど、勝手な言葉も勝手な言い癖も、俺からしたらみんな〝他人の戯言〟にしか聞こえない。否定も肯定も分からない。泣いたって気付いて貰えない。そんな世界に期待した俺が悪い。

深い溜息をつく。

「安らかに……」

しゃがんで、足元に転がってる女の目を手でそっと閉じる。何を思っているんだろうな、この女。だが今更お前を許せる訳が無い。自業自得ってやつだ。思わずフッと笑ってしまう。

最低だけど、これしか生きる道が無いのなら生きていくしかない。だから今日も人を殺しに、街に出る。

 

END